ドイツトロンボーン名工1
フランツ・クーン

日本においては、フランツ・クーンのトロンボーンは、結構有名です。なぜならヤマハのウィンナー・モデル開発の参考にされたことや1970年代までウィーン・フィルハーモニーのトロンボーンセクションが使用していたからでした。そして、一時期ヴィンテージ&オールドの世界ではクルスペより話題とされていました。

また、クーンモデルとしてその復刻モデルがヤマハ、グラッスル、レッチェで作られいたので、クーンに対する評価が高いようです。ただし、正式にクーンよりその権利を継承・取得したのはレッチェだけです。

クーンは、最初の工房をヴッパータールに構えました。その後1945年頃(たぶん戦後であると思います)ブレーメンに移転し、亡くなる1955年近くまで制作していたようです。

H・レッチェの現在の社長:ハンス=ヘルマン・ニーナバー氏によると、自分の工房を構える前は、L・ミッチングの工房で働いていたということです。

また、ブレーメンにいる時にヘルベルト・レッチェが工房にクーンを招いて、彼よりクーンモデルの権利を取得したということです。

私のリサーチによると、クルスペやヘッケルなどがパーツの多くを自身の工房で作っていたのと違い、クーンは旧チェコのグラスリッツ、ヨーゼフ・モンケの工房やフォクトランドからパーツを調達していたらしいとのことです。

私もクーンの楽器は何本も試奏する機会があり、楽器を良く見ると1930年代頃の楽器は、ほとんどシームレスパイプを使用しています。この当時の金管楽器製作の名工達(クルスペ・ヘッケルなど)は、ほとんどの場合巻板製法によるパイプを使用しています。また、専門家のリサーチによると、ボーゲンを手曲げではなく、当時の性能が低い油圧式の管曲げ機で曲げた痕跡や、バルブマシーンはグラスリッツ製であるとの見解です。

確証は取れていませんが、今のグラッスルのおじいさんなどがパーツ提供していたという話も聞いています。

そして、第二次大戦が激化した1940年代からは外国(並びにチェコ・グラスリッツ)からパーツを取り寄せることが出来なくなり、ナチスの統括下の戦時下でも楽器製作のために金属の調達が許可されていたヨーゼフ・モンケの工房よりパーツを調達していたようです。

モンケのある職人は、クーンはほとんどのパーツは外注で、組み立てをしていたかもしれないが、多くはマウスパイプやボーゲンをチューンする程度だったという話をしていました。

戦後は、共産圏となったチェコからは引き続きパーツを取り寄せることが無理なため、共産圏ではあるがまだパーツを取り寄せることが出来る旧東ドイツのフォクトランドや前述のモンケからパーツを取り寄せたり、レッチェなどにパーツを作らせていたのではないかと推測するされています。

他に、私が今まで見たクーンのエンブレムの彫刻は、何種類かあります。モノグラム調で製作者の名前 Franz Kuhn とエルバーフェルト (Elberfeld) 、またはヴッパータール (Wuppertal) と地名が刻まれていもるのは戦前のものあるいは1930年代までの製作で、その多くはグラスリッツなどより取り寄せたパーツで作られたものだとされています。

斜め上がりの彫刻のものは、モンケ、フォクトラントなどドイツ国内のパーツで作られたのではないかと推測されています。また、1940年代や戦後はVerfertigt von Franz Kuhn Langenberg Rhld. という彫刻のものが多く見られます。他には移転したブレーメンの所在していた町の名前を彫刻したものもあります。

楽器のエンブレムを彫刻する人は昔も今もそれほど多くないので、彫刻を外注している場合は、パーツの出所などがある程度特定できるようです。

以上のこと(パーツ・彫刻など)から専門家の中でも、クーンは外注パーツを多用していたし、他の者に作らせていた可能性が高いと見る専門家も少なくないそうです。

楽器のキャラクターは、外観的には重めですが、非常にライトな吹奏感で、中庸なダイナミックレンジにおいては、往年のウィーン・フィルのような独特の倍音豊かな柔らかさがあります。

しかし、サウンドキャラクターは、ザクセンの楽器クルスペやヘッケルとは違います。特に強奏時においてクーンの楽器は、倍音成分が非常に多く出るように設計されています。

ウィーン楽友協会のホールのように、音の反射が非常に多く起こるホールのための設定だと思います。たぶんウィーン・フィルは、ザクセンの楽器では直線的に響きすぎて、好みに合わなかったのでしょう。しかし、現在のニーズからするとクーンの楽器は、倍音成分が出過ぎて、現在のニーズに合わないと評価されてしまうでしょう。

クーンのトロンボーンは良い楽器ではあると思いますが、過剰に評価されている面もかなりあると個人的には思います。(私の偏見・好みかな?)

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